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こころのしずく

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NARUTO 17~22




リクエスト小説 サスケ奪回編後。最近、もみじがある人物に付きっきり。恋人のカカシ先生が嫉妬してしまう物語です。(カカもみ・ほのぼの)

※もみじは、春風様小説オリジナルキャラです。もみじはナルトと同年代の女の子。第七班に所属時、13歳の誕生日からカカシ先生と付き合っています。(第七班公認だと思われます)現在、暗部所属です。


『赤いりんご』(NARUTO17)

「あっカカシさん、いらしてたんですか。任務お疲れさまです」
 夕方、自宅のアパートに帰ったもみじは、部屋でくつろいでいるカカシに、にっこり挨拶した。
「もみじ~、今日もアイツんとこ行ってたの?」
「はい!」
 ベッドに寝ころんでだるそうに言うカカシに、もみじは嬉しそうに答える。
「でもねー、もみじも任務に忙しいんだから、無理しないほうがいいと思うんだけどな~」
「無理なんか……。大切な人を助けるのに、苦しいことなんてありません」
 もみじはきっぱり答えると、パジャマやタオル等をバッグから出した。『大切な人』と言う発言に、カカシの目は微妙にぴくりとする。
「さっ、洗濯洗濯」
「もみじ……そんなことまで……?」
「えっ? いけませんか?」
 なんだか落ち着きがないカカシに、もみじは不思議そうにたずねる。
「あ……、いや……」
「そうですよね。大事な人のために自分に出来ることをするのって、当然のことですよね」
 もみじは、上機嫌で洗濯を始めた。
「そ、そうだね。優しいなぁもみじは……」
 『大事な人』と言う言葉にまたも過剰反応しながら、けれどカカシは平静を装う。
「優しいからじゃありません。大切な大事な人につくすのは当然のことです」
 もみじの言葉は、カカシに決定打を与えた。この世の終わりのような表情をしかけたカカシだったが、もみじが振り向いたので無理に引きつった笑いを見せる。もみじは、幸せいっぱいの笑顔で言った。
「明後日、退院するんです。ナルトくん」

 サスケ奪回任務後、入院していたナルトを毎日見舞ったのはもみじだった。第七班のうち、サスケはもう里にいないし、サクラは綱手との修業に精一杯の日々を送っている。元第七班だったもみじは、大切な仲間として、ナルトの面倒を見るのは自分の役目だと信じていた。一方カカシはというと、性格上細かいところまで気が回らないようである。看護士さんが世話をしてくれるだろうと、特に気にもとめなかった。
 カカシは、もみじに世話を焼いてもらっているナルトがうらやましかった。そこで、こんな想像をしてみる。

『もみじ~。オレ、りんご食べたい』
 病院のベッドに座るカカシ。その傍らに座るかわいいもみじ。
『今むきますから、待っててくださいね』
 もみじはにっこり笑い、ナイフで器用にりんごの皮をむき、一口大に切る。
『オレ、点滴してるから、一人で食べらんないな~』
『カカシさんってば。はい、あーんしてください』

 甘い妄想に浸っていたカカシを現実に戻したのは、もみじの声だった。
「あっ! ナルトくんにりんご買うの忘れてました。遠くのおいしい八百屋さんまで行くので、すみませんが今日はお帰りいただけますか?」
「あ…そう……。じゃあね……」
 カカシは、さすがにカラ元気をふるう気力もなく、ふらふらと去っていった。

 暗い夜道を独り歩きながら、カカシはぶつぶつとつぶやいていた。
「確かにもみじはお人好しだ……。けどね~……何も毎日……」
 カカシはその夜とうとう、一睡も出来なかった。

 次の日、速攻で任務を終えたカカシは、木ノ葉病院へと足を運んだ。クマの出来た目で、ナルトの病室を覗く。カカシが見た現実は、次の通りだった。

「もみじ。オレ、なんか腹減ったってばよ」
 病院のベッドに座るナルト。その傍らに座るかわいいもみじ。
「今りんごむくから、待っててね」
 もみじはにっこり笑い、ナイフで器用にりんごの皮をむき、一口大に切る。
「あれっ、腕動かしたら点滴の管がからまっちまった」
「ナルトくんってば。はい――」

「うわぁぁー!!!」
 カカシは思わず病室へ飛び込んだ。
「カカシ先生!」
「カカシさん! どうしたんですか?」
 カカシははっと我に返る。
「あ……いやね、ナルトの見舞いに来たら、ちょっと幽霊を見かけておどろいちゃったのよ。あはは……」
 カカシは、必死でその場を取り繕った。
「もう……カカシさんってば、病院で不吉なこと言わないでください」
 カカシを怒ったもみじは、ナルトにりんごを食べさせていた。
「サーンキュもみじ! あっカカシ先生、オレってば明日退院っ!」
「そ……。良かったな……」
 カカシのうらめしげなオーラに、満面の笑みだったナルトは、あれっ? と不思議そうな顔をした。

 夜道の帰り道、カカシともみじは並んで歩いていた。
「もみじ。オレ明日から一週間任務で帰らないのよ。さみしい思いをさせてごめんね」
 カカシは、隣を歩くもみじを愛おしげに見つめて言った。
「いえ平気です。だって明日からナルトくんのお家へ行きますから」
 もみじは、にっこり笑って答えた。
「ナ、ナルトの家に泊まり込みだって!?」
 カカシは驚いて、思わず大声を上げた。辺りの人にじろじろ見られて、もみじは恥ずかしそうにうつむく。
「泊まり込みだなんて言ってません。夕方の任務帰りに寄るだけです。ナルトくんには家族もいないし、退院したからってまだ全快したわけでもないのに、独りで家事をこなすなんて可哀想じゃないですか」
 もみじは力説した。
「で、でもさ、アイツはしっかりしてるから、だいじょうぶ――」
「そういう問題じゃありません!」
 もみじはめずらしく、語調を強くした。
「そういうことじゃなくて……。ナルトくんは、生まれたときからずっと独りぼっちでした。最近では仲間もたくさん出来たけれど……でもサスケくんがいなくなって……。だから独りでいたら心の傷が広がると思うから……」
 頬を紅潮させて話すもみじに、カカシは静かに言った。
「もみじが優しい子だってのは、オレよく知ってるよ。けど……オレもみじの恋人だよ。いくらナルトだからって、他の男と部屋で二人きりってのは……オレ面白くないな……」
「……シさんは……」
 もみじは、うつむいて小さな声を出す。
「ん?」
「カカシさんは、私がナルトくんとそういうことすると思っているんですか!? 私のこと信じてくれないんですか!?」
 もみじはそのまま、かけていってしまった。

 結局その後もみじとは会えず、任務に出かけたカカシ。一週間、カカシはほとんど眠れずに過ごした。けれどカカシは、一生懸命自分に言い聞かせた。ナルトともみじが二人きりの部屋で過ごすのは、確かにおもしろくない。けれど、ナルトはそういう面では精神的にまだまだ子供。何より、もみじをやはり信じている。変な心配はないだろうと。帰ったらもみじに謝り、またもみじと仲良くしよう。そのころにはナルトも元気になり、もうもみじと頻繁に会うこともないだろうと思った。

 その考えが甘すぎたことに気が付いたのは、任務を終え、まだ自宅に戻る前の夕方だった。カカシは、演習場で見てしまったのだ。もみじとナルトが、二人で楽しそうにしているのを。ほとんど寝ていないカカシは、影で様子を見ようなどという考えも浮かばず、不機嫌をあらわにして二人の前にあらわれた。もみじは一週間前のことがあるのでうつむいたが、ナルトはカカシに飛びついた。
「カカシせっんせいー、お帰りー!」
 カカシは、抱きつくナルトを無理矢理離し、ますます酷くなったクマの目で、ナルトを上から下まで見た。
「ふぅん……お前にしちゃあ、ずいぶんきれいな服着てんな」
「えっ?」
「私が洗ってあげたんです!」
 もみじは、まるで闘いを挑むように言った。
「で、何やってた訳?」
「あ、いや、口寄せの術の修業を……」
「私が修業に付き合うって言ったんです!」
 ナルトは、カカシの態度がおかしいのに気付き、少し動揺した。
「ナルト……お前、甘えんのもいい加減にしな。子供じゃあるまいし、服くらい自分で洗えるだろ。それに、独りで修業も出来ないのか」
「カカシさ――」
「そんなことだから、サスケを取り戻せなかったんだよ」
 数秒、沈黙が続いた。そして……。
「そっ、そうだよなっ! オレ、甘えてたってばよ。ご、ごめんカカシ先生!」
 ナルトは明るく言うと、演習場をかけぬけていった。
 カカシは、しばらく呆然とした後、おそるおそるもみじを見た。もみじは、目に涙をためてカカシを見ていた。けれど、怒った顔はしていない。
「怒って……ないの?」
「はい。だって今の言葉、本気じゃないって分かってますから。そうですよね」
「ああ……」
 するともみじは、悲しそうな顔をした。
「だったら、なんであんなこと言ったんですか?」
 もみじの頬に涙が伝う。カカシは苦しげな表情でもみじを見つめ、そして言った。
「もみじが……好きだから……」
 はっとするもみじを残し、カカシは、ナルトが去ったほうへかけていった。

 夕日の見える丘で、ナルトは泣いていた。地面にうずくまり、激しく肩を震わせ、涙があとからあふれていた。カカシは、そっとナルトの横に腰を下ろした。
「ナルト……済まない」
 カカシは、ナルトの頭をぽんぽん優しくたたいた。何度も、何度も……。そのうちナルトが落ち着いてきたころ、カカシはぼそりと言った。
「サスケのことは、全部オレのせいだ」
「カカシ先生……」
 ナルトは、涙をぬぐってカカシの隣りに座った。
「せっかくもみじが、お前の傷を癒そうと頑張ったのになぁ」
 カカシは、丘から遠くの里を見下ろした。
「なのにオレは、夜も眠れないほどお前に嫉妬して、ひどいこと言っちゃったな」
「……そっか。最近もみじとオレ、ずっと一緒にいたもんな。ゴメン先生。でもさっ」
 ナルトは、少し頬を赤らめた。
「オレ、カカシ先生の気持ち、少しだけ分かるってばよ。サクラちゃんと一緒にいるサスケ見てると、なんか面白くなくてよ」
「そうか……」
「だけどオレ、夜も眠れないほど辛かったこと、一度もないってばよ。カカシ先生は、それだけもみじのこと、好きなんだな」
 カカシはナルトのストレートな言葉に少しうろたえたが、丘から見える見晴らしのよい景色にふっと心が解放されたのか、ふぅと息をもらすと穏やかに言った。
「ああ。好きで好きで、たまらないんだ……。お前に、心にもない最低なことを言ってしまうくらい……。どうしようもなくな……」
 ナルトは大人の恋の発言に、思わず顔を赤くした。そして立ち上がって振り向き言った。
「もみじ。全部聞いてただろ。いいな~オレもサクラちゃんに言われてみたいってばよ」
 ナルトはニシシと笑いながら、二人に手を振り去っていった。
「ごめんなさい……カカシさん……」
 もみじは、赤くなりながらあやまった。
「えっ? 何が?」
「つい気になって、話聞いてしまって……」
「いや……どうせ後で言うつもりだったし……」
 カカシは立ち上がり、けれど丘の向こうに目を向けたまま――
「ごめんね……もみじ……」
 それだけ、ぼそりと言った。その言葉には、いろいろな意味が含まれていた。
 もみじは少し考えていたが、やがてカカシの正面に立ち言った。
「私、カカシさんのこと誰よりも好きです!」
 もみじは顔を真っ赤にしながら、驚くカカシを見上げてさらに言った。
「あ……愛してます!」
 もみじは、それだけ言うとしゃがみ込んで顔を覆った。よほど恥ずかしかったのだろう。
「ごめんなさい……」
「え? えっ?」
 カカシは、赤くなりながら混乱している。
「だって……私は例えばカカシさんとサクラが一緒にいても、だいじょうぶです……。それは……カカシさんが……、私を好きって……いつも言ってくれるから……です。でも……」
 もみじは、泣きそうな声で続ける。
「私は……ちゃんと言わなかったから……。好きって言ってもらうばかりで……。だからナルトくんと普通に一緒にいただけでカカシさんは……。そんなこと全然気付かなくて……私勝手なことばかり言って……ごめんなさい……」
 カカシは、もみじを後ろから優しく抱きしめた。
「ありがとうもみじ。今日からは、ぐっすり眠れそうだよ」
 カカシは、もみじのあたたかさを感じながら、にっこり笑った。

 それから丘の上で、二人は並んで座った。
「カカシさん、ホントにその目のクマ、すごいですよ」
「んじゃ、今晩もっとぐっすり眠れるように、世界で一番愛してるって言って」
「そんな恥ずかしいこと言えません!」
 もみじは、真っ赤な顔をふいっとそらす。
「じゃあ、オレの服洗濯してよ」
「服くらい、自分で洗えますよね。子供じゃないんだから。さっき誰かさんがそう言ってました」
 カカシは、勘弁してくれとばかりに苦笑いする。が、こりずに一言。
「じゃーりんごむいて食べさせてよ~」
 もみじは、つーんと顔を背けたまま。
「ねっいいでしょもみじ。だってやっぱりナルトに食べさせてやってたの、うらやましかったんだもん」
 もみじは、顔を背けたまま、ちらりとカカシを見た。
「……いいですよ」
「へっ? もみじホント?」
「ナルトくんに食べさせてあげてたとき……本当はこれがカカシさんだったらなぁって思ったんです」
 もみじは、カカシににっこり笑った。
 
 帰り道、カカシともみじは一緒に、りんごを一個買った。もみじは赤いりんごを両手で大事そうに包み込み、カカシはそんなもみじを優しく眺め、二人は夕暮れの街をゆっくり歩いた。



☆あとがき☆
春風様からのリクエスト小説です。
またやっちゃいました。。リク要素を聞いておきながら……。えと、ほのぼのとのご要望だったのですが、途中からシリアスに、最後のほうは甘甘に^^; ラスト、無理矢理ほのぼのにしました。でも、変……。「ほのぼのやきもち」のご要望、出来るかもと言っておきながら、技量が足りませんでした・汗 あ~本当にごめんなさい。。
でもでも…リクエスト頂きましたので……(アセアセ)
この度はリクエストありがとうございました。
この物語を、春風様に捧げます。

追記:春風様が、この作品をご自分のHPに掲載してくださいました。とても光栄です。いつも本当にありがとうございます。

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捧げもの詩 サスケ奪回任務後、サクラがサスケを案じる想い…そして第七班当初を懐かしく思い出す詩です。(サスサク 詩形式・シリアス)


『桜吹雪の道』(NARUTO18)


ねぇサスケくん。。何故あなたはそんなところにいるの?

凍えて、身体、とっても冷たいよ……。


ねぇサスケくん。。ここは暗くて、なにも見えないよ。

重くて、苦しくて、辛いよ……。


ねぇサスケくん。。あなたと、行きたいところがあるの。

あの春の日の、桜吹雪が舞った、任務帰りの道。

私があなたを追いかけた、あなたが早足で歩いた、あの道。



☆あとがき☆
闇の中のサスケと幸せな第七班当初の対比、サスケとサクラの距離感等を意識して書きました。また、この詩は小説『桜雨』(NARUTO16)を少しイメージしています。
「こころのしずく」一周年記念のお祝いにるろうに剣心連載小説『剣と心』の挿絵をくださった美月様へ、お礼として捧げます。

追記:美月様が、ご自分のHPにこの詩を掲載してくださいました(しかも背景がとても綺麗です)とても光栄です。また、この詩と対になる詩をくださいました。フリーページのNARUTO(頂き物)小説に掲載させていただきました。このような詩に合わせて大変素晴らしい詩を書いていただき、ありがとうございました。

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捧げもの詩 いつも身を危険にさらされている忍。テマリがそんな悲しい定めから逃れてシカマルと共にいたいと願う詩です。(テマシカ 詩形式・シリアス)


『いつまでも』(NARUTO19)


シカマル……。ときどき、思うよ。

二人だけで、どこかへ行ってしまいたい……。


一面の空だけが見える場所で、そこにぽつんとある小さな家で……。

毎日雲を眺めながら、一緒にいよう。


ずっと離れないように……。

どちらかが独りで逝ってしまわないように……。

いつまでも、そばにいられるように……。



☆あとがき☆
哀鈴様の小説『晴れ時々雨。』(テマリ死にネタ)をイメージさせていただきました。「こころのしずく」一周年記念のお祝いにシカマル絵をくださった哀鈴様へ、お礼として捧げます。

追記:哀鈴様がこの詩をご自分のHPに掲載してくださいました。とても光栄です。ありがとうございます!

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20000アクセス記念小説。ナルト アカデミー時代、紅葉の季節。11歳のナルトと10歳のヒナタ。幼いナルトとヒナタの孤独……人間愛と生きる強さをテーマとした物語です。(ナルヒナ・シリアス)


『秋深く』(NARUTO20)

 木ノ葉の里に、秋が訪れた。色鮮やかに染まった広大な森では、本日紅葉祭がひらかれていた。里中の者が、家族や仲間と森へ出かけた。里の一大イベントである。
 穏やかな秋の一日。どこまでも高い青空。賑わう森。人々はあちらこちらでゴザを敷き、酒を飲みごちそうを食べ……。親子や、兄弟や、友人や、仲間や……皆で寄り添い楽しんでいた。
 笑い声が絶え間なく聞こえる森の側を、静かに通り抜けた少年がいた。そしてその少し後、同じ場所を抜けていく少女がいた。

 森の側を抜けた少年――ナルトは、山へ入っていった。黙々と、山奥へ入っていく。かなり長い時間を歩いた。やがて、ぽっかり空いた平面にたどり着いた。辺りは深い紅葉の木々でおおわれ、その色鮮やかさは森よりもはるかに濃く、赤いもみじや黄色の銀杏が幻想的で、むせかえりそうな木と土の匂いに満ちていた。
 少し肌寒い山奥。かすかに吹く風が鳴らす葉のささやき以外に、音はなかった。全て吸い込まれそうな静かすぎるその場所で、ナルトはやっと心が少しゆるんだ。
 うつむくナルトの顔に、夕陽が当たる。ナルトは、空を見上げた。やけに強い夕陽の光は葉を一層鮮やかに染め、その向こうに赤い空が広がっていた。その強烈な赤い光は、いつもナルトを突き刺すのだが――今日は一層痛かった。
 秋の日は短い。やがて暗くなるだろう。ナルトは暗い山道を、独り帰らなければならない。

 カサ…と小さく落ち葉を踏む音が聞こえた。ナルトははっと顔を上げた。そこに静かに立っていた少女――それは先程ナルトと同じように森の側を通り抜けた、女の子。白い顔も服も夕焼け色に染め、長い影を落としているのは……ヒナタだった。

「ヒナタ……」
 ナルトは驚いて、ヒナタを見つめた。
「ナルトくん……!」
 ヒナタも、顔を上げ、両手を口に当てた。
「なんでヒナタがこんなとこいんだよ。父ちゃんや妹と祭に行かなかったのか?」
 ヒナタに目を合わせぬまま、ナルトはそっぽを向き、不機嫌そうにぼそりと言う。
「……あの、ナルトくん……紅葉見るときはみんな、座ってるよ。私……風呂敷、持ってるよ……」
 ヒナタは、もみじの木の下に、小さな風呂敷を広げた。
「ナルトくん、座って」
 おどおどしながら、ヒナタは小さな声ですすめる。
「うん……」
 ナルトは憂鬱そうに座ると、ヒナタを見上げ言った。
「お前も……座れってばよ」
 風呂敷の面積の半分は、もうナルトがしめていた。
「う、うん……」
 ヒナタは、残りの狭い場所へ座る。ナルトと、ほとんど触れ合いそうなくらい近い位置だった。ナルトは、ヒナタの熱い息を感じた。ヒナタは真っ赤にうつむいて、正座したひざに両手を当ててぎゅっと握りしめる。
「なにうつむいてんだよ。紅葉見に来たんじゃねぇのか?」
 ヒナタは、うつむいたまま首を振った。
「祭、何で行かなかったんだ? 祭きらいなのか?」
 ヒナタは、少しの間をあけて、また首を振った。
「なら、行けばよかったのによ。父ちゃんや妹と……一緒にさ……」
 ナルトは、あまり抑揚のない声でつまらなそうに言うと、ヒナタは黙り込んでしまった。
「何で行かなかったんだよ」
 ナルトの語調は、強かった。言葉を発してから、ナルトは自分で驚いた。
 ヒナタは、うつむいたまま両手で顔をおおった。肩が、小刻みに震えている。
「ヒナタ?」
 ナルトは驚いて、ヒナタを覗き込んだ。ヒナタの、顔をおおった両手から涙がつたい、白い腕に流れ、膝の上に落ちていった。
「ヒナタ……」
 ナルトは、困惑してヒナタをただ見つめる。ヒナタは、しばらく泣き声をもらさず、ただ肩を震わせ涙を流していた。少しして、ヒナタの口から声とも息ともつかぬ音がもれた。
「えっ?」
 ナルトは、それを聞き逃さなかった。
「……ない……って……」
「ヒナタ?」
「父さまは……私……の…こと……」
 ヒナタは、息苦しそうに言葉を紡ぐ。
「いらない……って……」
 ナルトは、目を見開いた。
「ハナビが……いる……から……」
 ヒナタは、それきりまた、泣き声がもれるのを必死でおさえうつむいたまま……。
「……そっか。それが悲しくて……泣いてんのか……」
 ナルトの言葉に、ヒナタは首を振った。そしてぷつんと糸が切れたように、ヒナタは急に激しく声をあげてしゃくり上げた。
「ヒナタ……」
 ナルトはどうして良いか分からず、けれどヒナタを抱きしめた。自分はだれにも抱いてもらった記憶などないけれど、普通の子供はよく親にこうして抱きしめてもらって、なぐさめてもらうということを、知っていたからだ。
「なんで……泣いてんだ?」
 ナルトは、優しく聞いた。自分は誰かに優しくしてもらったことなどないけれど、よく友達同士でそうしてなだめ合っていることを、知っていたからだ。
「だっ……、ナルト…くんは……、もっ、もっと…もっと……」
 ヒナタは、泣きながらナルトを抱きしめかえした。
「……辛かったん…だよね……。生まれた……ときから……。毎日…ずっと……。今も……辛くて……くる…しくて……」
 ヒナタはナルトを、ぎゅっと抱きしめる。ナルトは、顔を歪めて唇をかむ。
「さみしい……よね……」
 ナルトは、ヒナタを抱きしめたまま……我慢出来なくなった涙をこぼした。流した涙は簡単には止まらず、とめどなく流れた。
 生まれてから……気が付いたら独りだった。毎日、心が……、胸がしめつけられて、痛かった。大人からむけられる、射るような冷たい目。なんとなくさけられる、クラスの友達。誰もいない、家。辛くて、苦しくて、さみしかった。逃れようもなく、永遠にそれが続く毎日……。慣れることなど出来ない孤独。いたずらして注目をあびても、修業で気を紛らわしても……今日のような日は強く突きつけられる孤独の刃。引き裂かれて血を流す心。耐えきれず逃げだし、独り山奥で泣いていた。毎年それが続いていたのに――
 ヒナタがいる。今日はヒナタが、そばにいてくれる。抱きしめてもらったのも、優しくされたのも、ナルトにとって初めての経験で……。
 どうしようもなく、ナルトはヒナタにしがみついて泣いた。嗚咽をもらして、涙をぼろぼろこぼした。ヒナタは、ナルトの気持ちが自分にとけこまれるように、一緒に泣いた。ナルトは涙がとまらないまま、あたたかいヒナタを絶対に離したくなくて、強く…強く……抱きしめた。

 このとき、ナルト十一歳。ヒナタ十歳。幼すぎる二人は、ただ二人泣くことしか出来なかった。その後ナルトは相変わらず独りぼっちの日々を送り、ヒナタはいらない子としてただ存在した。

 けれど……時は流れ、人は変わる。ナルトは、ぞっとするような闇の過去から光の世界へと自らを導き――ヒナタもまた、自分の存在価値を意識し強くなっていく。お互いが、お互いの生き方を見つめながら……。

 ナルトが修業のため里を発つ日、ヒナタは影からそれを見守った。二人は、あの日を思い出す。二人の心の中、幼い二人は赤や黄色の葉が舞い散る中で、それぞれ涙をぬぐい、向かい合ってにっこり笑った。そして、幼い二人は未来の自分たちに笑ってささやく。それで…いいんだよ、って。
 そのとき、里を発つナルトは、見守るヒナタは、空から色とりどりの葉が舞い降りた気がした。



☆あとがき☆
20000アクセス記念小説。この話はずっと書きたくてあたためていました。今回、20000アクセス記念&書きたかった小説だったため、いつも以上に気合いをいれました。描写は丁寧に、文章も本格的に、ストーリーは重みをもたせ……そしてキャラは心情にリアル感をもたせるように、務めました。出来上がってみると、イメージの半分も上手くいっていなくて思い切り未熟を感じますが、今回はとにかく頑張りました。
テーマは、人間愛……そして、そこから生まれる生きる強さです。
この物語は、「こころのしずく」を応援してくださった全ての方へのお礼として、主人公ナルト出演で書きました。今後とも「こころのしずく」をよろしくお願い致します。

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サスケ奪回任務から約一ヶ月。心の傷を負うナルトとサクラ。二人が失ったものとは……。(ナルトとサクラ・シリアス)

※題名及び作中イメージは、アニメNARUTO-ナルトエンディング『失くした言葉』からお借りしました。


『失くした言葉』(NARUTO21)

 アイツを連れ戻せなかったあの時から、もう一ヶ月くらいたつ。オレは今日退院した。家へ向かう途中、橋の真ん中でサクラちゃんと会った。サクラちゃんは、なんだかぼーっとして、手すりに腕のせて川の流れを見つめてた。
「サクラちゃん!」
 オレが声をかけると、サクラちゃんははっとして顔をあげた。
「ナルト! アンタ今日退院だったの!? なんで教えてくれなかったのよ!」
 サクラちゃんは、急いでオレのバッグを持ってくれた。
「だってサクラちゃん、綱手のばあちゃんと修業中だと思ったってばよ」
 オレは、バッグをサクラちゃんからとって、また自分で持った。サクラちゃんは、少し考え込んで、そんで言った。
「今日は……修業休みなの……」
 サクラちゃんは、少し元気なさそうに答えた。なんでか、オレから目をそらしてる気がした。そういえば、この橋は昔、第七班の任務があったころよく待ち合わせしてた場所だったっけ。
「ふぅん……」
 オレは、しばらく考えてから思った。サクラちゃんが元気ない原因なんて、よく分かってる。ならオレが、元気づけてやるってばよ。
「じゃあさ、じゃあさ、オレとこうパーッと遊びに行くってばよ!」
「……アンタと?」
 サクラちゃんの冷めた言葉にオレは一瞬ズキンときた……けど。
「だってオレってば、退院したばっかでまだ修業とかできねーしさっ。サクラちゃんだって、川眺めてるよりはきっと楽しいってばよ」
 オレは、無理矢理そう言った。
「……そうね」
 サクラちゃんは、少しだけ笑ってくれた。

 オレとサクラちゃんは、二人で町中を歩いた。
「あー腹へったぁ。サクラちゃん、どっか店入る?」
「そうね」
 オレたちは、辺りを見回した。町の中心部のこのあたりじゃ、茶屋はたくさんある。その中で、第七班のオレたち三人が入らなかった茶屋は三軒。甘いものしかおいてない店だ。アイツは、甘いもん嫌いだから……。
「ナルト、あのお店にしよ」
 サクラちゃんが選んだ茶屋は、アイツが嫌がって入らなかった、甘いものしかおいてない店だった。

 昼飯をすませて、オレたちはまた町を歩いた。けど……町中はどこへ行ってもアイツとの思い出でいっぱいで……。サクラちゃんもなんだかうつむいちゃって、元気なかった。オレは、アイツと関係ないところはないか、必死で考えて、そんで思いついた。
「なぁサクラちゃん。映画でも見に行くってばよ」
「うん。そうね……」
 サクラちゃんは、なんだか少しだけ救われたように笑った。

 映画館の前で、オレたちは上映中のポスターを見た。三つやってる。ホラーと、恋愛ものと、もう一つは……!
 
『これなら、少しは見る価値がありそうだな……』

 前にこの映画館を通りかかったとき、アイツがボソリと言っていた映画。復讐ものだった。
「これってば前にサス……」
 オレはついそう言いかけて、はっと口をつぐんだ。サクラちゃんも、びくっと肩を震わせた。
「あっ、いや、これってばぁ、その、前に、前にぃっ――」
「ナルト……やっぱ見るのやめよ」
 サクラちゃんは、オレの袖をそっと引っ張った。オレは、うつむくサクラちゃんを見ながら、すげぇ辛くなっちまったけど……うんってうなずいた。

 けど……町を出て森へ入っても、結局アイツと任務したところばっかで……。他に考えても、演習場もアカデミーもみんなダメで……。オレとサクラちゃんは思ったよりずっとずっと、アイツと一緒に木ノ葉の里で過ごしたんだなって、そう思い知っただけだった。

「ナルト……」
 ふいに、さっきまで黙り込んでいたサクラちゃんが口を開いた。気が付けば、もう夕暮れだった。日が沈みかけて、森はどんどん暗くなっていく。
「どしたのサクラちゃん」
 オレは、頑張って思い切り笑顔を作って聞いた。
「あのね……本当は、今日の修業、休みとはちょっと違うの」
 サクラちゃんは、泣きそうな目でオレを見つめた。オレはびっくりして、サクラちゃんを見つめ返した。
「最近ね、夢を見るの。毎晩同じ夢。追いかけても届かなくて……。その夢が現実でも頭から離れなくて……修業に身が入らなくて……。昨日綱手師匠から、そんなんじゃ修業にならないから明日はこなくていいって、そう言われたの……」
 サクラちゃんは、伏し目がちにそう言った。
 オレには、サクラちゃんが追いかけても届かないものが何なのか、すぐに分かった。
「サクラちゃん……」
 オレはサクラちゃんを慰めてあげたかったけど、何故か言葉が出てこなかった。なんでか分かんねーけど、それからオレは、何も言えなくなっちまったってばよ。サクラちゃんも、ずっと黙ったまんまだ。
 もう帰る時間だってのに……だけどオレはなんだか帰りたくなかった。サクラちゃんの顔を見るだけで、アイツを思い出しちまう。けど……離れるのは辛くて……。サクラちゃんも黙ってついてきたから、オレたちは森の奥に入っていったんだ。辺りはもう真っ暗で……。
 ふいに現れたのは、森に囲まれた大きな湖だった。オレは、こんなところに湖があったなんて知らなかった。サクラちゃんも、少しびっくりした顔したから、多分知らなかったんだと思う。そしてここは……アイツとオレたちは一緒に来たことがない。
 小さな舟が岸にあった。オレは黙って乗って、そんで座った。サクラちゃんはオレに背を向けて乗り、座った。
 オレは静かにこぎはじめた。舟がきしむ音だけが、辺りに響いた。空を見上げて、オレははっとした。空は満天の星空で……その星の光がすぅっとたくさん降ってきて、湖に落ちていくんだ。オレってば、夢でも見てんのかな。それとも、幻術にでもかけられて……。
 いや……これって……、サクラちゃんの心ん中……。
 そう思ったとき、サクラちゃんはオレの背中に自分の背中をくっつけて、寄りかかってきた。その瞬間、オレの心、すっげぇズキンとした。それが、サクラちゃんからオレに伝わってきた心だってのは、すぐに分かった。ちらりと振り向くと、サクラちゃんは星の光を手にすくい、そのまま顔をおおった。流れ星の光に、願いをたくしてんのかな……。
 オレはまたサクラちゃんに背を向けて、空を見上げた。まだ痛む心を、そのままにしておいた。オレに背中を預けるサクラちゃんと、同じ気持ちでいたかったから……。今だけは、そうしていたかったから……。
 そんなことを考えていたら、夜空に、アイツの姿が見えた気がした。アイツは背を向けて、ゆっくり歩いて去っていく。そうだねサクラちゃん。追いかけても、届きそうもねぇってばよ……。
 
 オレたちが失くした言葉。それは、アイツ――サスケ。お前を、呼ぶ言葉。

 やがて舟は岸につき、オレは降りてサクラちゃんに手を貸した。
「ナルト……ありがとう」
 サクラちゃんはオレの手をつかんで、初めてにっこり笑ってくれた。

 帰り道、サクラちゃんは明日からまた修業に戻るって言った。オレも、早く修業の旅に出ないとな。

 サクラちゃん。今は無理かもしんねぇ。けど今度オレが里に帰ってきたときは、その時はアイツ、いや、サスケのこといっぱい話そうな。そんでもって、サスケを連れ戻して、そしたら三人でたくさん話しながらさ。木ノ葉の里で任務したり遊んだりしようってばよ。その時もきっと、サクラちゃんはまたサスケばっか追いかけて、オレってばまたむくれてるんだろーな。けどさ……それでもいーからさ、オレ……。サクラちゃんが幸せに笑って、サスケが心から笑って……そしたらオレ、すっげぇうれしいからさ。
 三人で笑ってるとき、オレってばなんでかうれしくてたまんねーんだ。そんな中で笑ってるサクラちゃんが……オレ、一番好きだってばよ。



☆あとがき☆
テーマは、ナルトとサクラの微妙な関係。それと二人の間で共通する傷、サスケへの想いです。
アニメNARUTO-ナルトエンディング『失くした(なくした)言葉』は、管理人の大好きなエンディングです。星降る夜、湖に浮かぶ小さな舟でナルトとサクラは背中合わせに座り、ナルトは空を見上げ、サクラは落ちてきた星の光を手のひらですくい顔をおおうのです。サスケが去っていくイメージシーンもあり……切ないです。
今回は、このエンディングをイメージして、物語を作りました。
ほんの少しだけ、ナルサク風にしてみました。ナルサクは、一応、初です。

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春風様ともみじ(春風様オリジナルキャラ)へのお誕生日プレゼント小説(捧げもの小説)大人のカカシに恋心を抱くまだ幼いもみじの初々しさを書いた物語です。(カカもみ・純愛)

オリジナルキャラ もみじについて(春風様NARUTO小説オリジナルキャラです)
 秋野もみじ ※ナルトたちと同年齢。陰陽師。サクラのいとこ。
 第七班に所属し活躍(もみじ12歳時設定)
※H17.11月現在、春風様及びもみじは成長されていますが、あえてもみじ初登場の12歳時の物語にさせていただきました。


『手を伸ばして……』(NARUTO22)

 私は秋野もみじ。十二歳です。
 カカシさんと初めてあったとき、優しそうな人だなって思いました。でも一緒に任務をこなしていくうちに、いろんなことを知りました。時間にルーズなこと。常にイチャイチャパラダイスっていうエッチな本を持ち歩いていること。結構のんきなこと。だけどカカシさんは、素敵なところもいっぱいあります。戦闘中はキリッとしてカッコいいし、仲間思いだし。
 私は、子供なのに、すっごく年上のカカシさんを好きになってしまいました。いつの間にか、です。理由なんか、分かんないです。
 だけど、困りました。だって、子供な私が、大人なカカシさんと付き合えるわけがありません。カカシさんに合う女の人は、大人でお色気がある、きっとイチャイチャパラダイスに出てくるような人なのでしょう。
 そんなわけで、付き合うのは非現実的なのであきらめました。でも、一緒に任務出来る毎日は、とても楽しいです。
 ある日、チャクラのコントロールを誤ってガケから落ちそうになったとき、上にいたカカシさんが手を差し伸べてくれました。私は、ガケから落ちそうなことなんかすっかり忘れて、ただ胸がドッキュンでした。手を伸ばして、大きなカカシさんの手をつかむと、カカシさんはぎゅっと私の手を握ってくれました。カカシさんの手はとてもあたたかくて……。あのときはもう、本当にドキドキしました。
 それから、カカシさんのこと、ますます気になりました。いつも見ていたくて……でもそれを気付かれないようにするのは大変です。それでも、すきを見てちらりと見るカカシさんは、すっごく大人の雰囲気で、心があったかくなります。
 でも、気付いてしまいました。カカシさんは、優しい目の中に、悲しい影があるんです。みんなが見てないとき、ふとそんな目で遠くを眺めてます。
 カカシさんは大人だから、きっと私にはどうにもならないような辛いことがあるのでしょう。子供の私には、多分なにもしてあげられなくて……辛いです。
 カカシさんは、大人です。背が高いので顔を見るには見上げなければならないし、難しいことたくさん知ってます。大人の女性と話してるカカシさんには、正直嫉妬してしまいます。
 そんなある日のことでした。サクラが、カカシさんにちょっと怒られたんです。サクラ、お前は……って。サクラはしゅんとしてました。でも、私もしゅんとしちゃいました。うらやましかったんです。「サクラ」って呼び捨てで呼んでもらえることや、「お前」ってなんか仲よさそうなところや……。私は、気付いたら泣いていました。カカシさんは驚いて、ナルトくんたちを帰して私と二人きりになってくれました。どうしたの、もみじちゃんって言われて、私はますます悲しくて泣きました。カカシさんは困ったように笑って、どうしたのかな? なんて言いながら、私の頭をなでました。私はもうどうしようもなくなって、しゃくりあげて声をあげて泣きました。涙がポロポロ出て、止まりません。そうしたらカカシさんは、何も聞かずに抱きしめてくれました。
 大人です。カカシさんは、大人です。とても、手が届きません。前に、ガケから落ちそうになったとき、差し伸べられた手。私が手を伸ばして、やっと届いたその距離。せめて、それくらい近ければいいのに。でも、私とカカシさんの距離は遠すぎます。
 でも、また違うある日のことでした。カカシさんが、慰霊碑の前で独りたたずむのを見て、私は思わず、そっとカカシさんのとなりに立ちました。カカシさんは驚いて私を見たけれど、あの悲しげな目を少し残したままでした。私は、その時少しだけ分かりました。カカシさんが悲しいわけ。大切な人を失ったのだと……。その辛さは、私にも分かりました。私にも、お父さんがいないからです。私はその時、カカシさんの心をとても近くに感じました。思い切ってカカシさんの目を見つめると、カカシさんも私を見つめていました。
 辺りは、不思議と静かでした。もみじちゃん……ってカカシさんは呼びました。私はまた心がズキンとしましたが、カカシさんは手を差し出しました。少しだけ、手、握っててくれない? って言われました。私は信じられない気持ちのまま、おそるおそる、その手を取りました。その時のカカシさんの手は、ガケで差し伸べられたときより、ずっとずっと近かったです。その手から、カカシさんの悲しみと一緒に、とてもあたたかいものが伝わってきました。そのあたたかさは、前に感じた体温のあたたかさだけではありませんでした。
 そうして十三歳の誕生日。それは私にとって運命の日でした。カカシさんが、私を選んでくれたんです。
 それからも、やっぱりカカシさんは大人で、私は背伸びして追いつこうとします。カカシさんは、そのままでいいって言ってくれます。でも私はやっぱり、少しでもカカシさんに近づきたいのです。そう。一生懸命、手を伸ばして……。

 あれから数年。今年もまた誕生日をむかえました。カカシさんと私はとても至近距離で、もう手を伸ばさなくても、届くようになりました。
 でも、不思議ですね。今のカカシさんは変わらずとっても愛しいのに、なぜか幼い頃のあの距離感……手を伸ばしても届かないほど大人に思えたカカシさんをたまに思いだしては、今でもときめいてしまうのです。



☆あとがき☆
差し上げもの小説です。
テーマは大人と子供の恋です。今回、書き方を少し変えてみました。もみじ一人称&セリフ無しです。
子供のもみじは大人としてのカカシ先生をどう思っているのか、そしてその恋心の複雑な気持ちを書きました。幼いもみじの純粋な気持ちが、少しでも伝わったら幸いです。
この物語を、春風様ともみじ(春風様オリジナルキャラ)へのお誕生日プレゼントとして捧げます。

追記:春風様が、この作品をご自分のHPに掲載してくださいました。とても光栄です。いつもいつも本当にありがとうございます。





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